連載 No.46 2017年01月08日掲載

 

都会に求めるもの


夏には観光客でにぎわう北海道だが、

気候の厳しい冬になると観光資源はスキー場など、特定の地域だけに限られてしまう。

道北部、特に稚内などでは、この時期になると観光客の姿を見ることはあまりない。

そしてその東側のオホーツク海に面した猿払から雄武あたりになると、地名もなじみが薄く、

さらに訪れる人の少ない地域と言えるだろう。



流氷観光で知られる紋別から北上し、日本最北端の宗谷岬に向かって車を走らせると、

町と町との間隔が少しずつ長くなり、年末年始にはガソリンの残量に気を使う。

不便な場所ではあるが、西の風を受けにくく、

日本海側で吹雪が続くと、逃げ場を探すようにこの場所を訪れるようになった。



朽ち果てた船はずいぶん前に見つけていた。

背景に走る国道を、横殴りの雪がかき消してくれた。

今回の撮影地は宗谷岬の近く。風景写真は季節や天候に左右されるが、

大気と地表の両方を一瞬で変えてしまう雪の魅力に勝るものはないだろう。



私の住んでいる千葉県御宿町は、南房総の海が見える場所にある。

都内から転居したのは2009年。

そのころから雲や海の風景を撮影することが多くなった。

御宿を撮影した作品はまだないが、さまざまに表情を変える海を日々見ることが、少なからず影響しているように思える。



東京から約120キロの御宿は、車の他にも電車やバスなど交通機関は選べるが、いずれにしても2時間ほどの道のりだ。

広い仕事場を求めて転居したのだが、すべての仕事をここでこなしているわけではない。

ずっと活動の拠点にしている目黒区にも事務所を借りている。

生活と仕事の拠点が2カ所になりそれなりの出費を強いられるが、

都内で暮らすクリエーターには私のように隣県や、伊豆、八ヶ岳などにアトリエを構えて二重生活をする人が多い。



広い作業空間を求めるのが主な理由で、自然が豊富な生活環境も魅力だ。

移動時間や都会での消耗を考えると、都内に拠点を構える必要はないように思われる。

なぜ、負担の大きい都心に仕事場を構えなければならないのか?

千葉でも制作活動や、情報の発信に不自由を感じたことはない。、

美術館などの文化施設が遠いといっても、自分から求めて出かけるのであれば数時間の距離など苦にならない



私が都会に求めているのは、偶然やってくる受身の経験かもしれない。

こちらから会いに行くのではなく、身構えなくても新しい誰かがやってくる。

聞こえてくるもの、自然に見えるもの、気がつくとそこにある。

海のそばにいて、見知らぬ鳥がやってきたり、朝起きると美しい花が咲いているような、

そんな自然な経験が芸術や創作の世界で目に留まる。